第十節 鍼灸治療方法の種々相(4/7)

(三)病気に対する治療穴の種々相

 病気に対する治療穴にしても種々雑多である。⑴五指伸びざるには中渚穴、⑵眼の努肉かゝるには睛明穴、⑶耳聾気閉には聴会穴、⑷鼻衂には禾髎穴、⑸鼻塞不閉には迎香穴、⑹喘痰は天突穴、⑺婦人病一切には臍下三穴腰間七穴施灸刺鍼が「霊光賦」「方興輗」に記載されてゐる、このやうなことを挙例すれぽ際限がない。又拙著「一本鍼伝書」にも一本必治の標治的刺法を示しておいた。即ち、⑻鼻塞、鼻香を知らざるに印堂穴に下斜鍼に入れ鼻中に響けば鼻に通り、気持もよくなる、⑼耳鳴の時、頬車穴に前方に向けて刺し耳中に響けば、耳鳴りは少くなるか、止むものである。⑽五十肩とか、五十腕とか、寿命痛とかいわれる、俗に年うでといふもので、帯をしめたり、帽子をかぶつたり出来ないのに刺鍼して軽くすることが出来るが、手肘を屈伸して後側が痛めば、肩髃穴から、前側が痛めば肩髎穴から、いづれも、肩峰突起の下面に沿ふて刺入し、後から刺して前に響き、、前から刺して後面に響けば大抵、今までうごかなかつた、うでが楽くに多少はうごくやうになるものである。⑾肩胛間部がハル、コル、引きつるといふのに欠盆穴より後方を刺的するやうに鍼尖をむけて刺し、響が肩胛間部に達すれば(中間の響がないことが普通である)肩胛間部の異常は軽減するのである。⑿坐骨神経痛等のとき腸骨櫛後縁の上際に内下斜鍼三寸乃至四寸位刺入するか、臀部の外境の近くに指圧すれば大腿後側に響くところがある。この点に内上斜に鍼を向けて刺入すること一寸乃至二寸で大腿に響けぱ、おじぎの出来ない人でも楽くにお叩頭が出来るやうになる。このやうに「病気の近所に刺灸する」ことにより効果を期待するものがある、これは前記の標治法である。漢方古法は多分にこのやうな、標治的方法をとつてゐる。後藤艮山、香川修庵の灸法などはその代表的なものである。「後藤艮山五極灸」に臁瘡痔痒陰虫破瓜疥癬癜風小児白禿の如きは瘀血皮膚にあり、宜しく表の熱を開くべしとて、 これを開表といひ、脾胃和せず泄瀉して止まず、痰喘吐衂腸風下血するが如きは則ち臓腑に病あり、宜しく温動して之を動すべしと云ひ、労熱盗汗痃癖痞塊鬲噎反胃狂乱癲癇の如きは病の因るところ深し、根固蒂灸灼尤も多くして根底に徹せしむべしとて、日日月に数十乃至数万の灸を据々えべしといふてゐる。これを徹底といふ。
 このやうに、刺戟療法と直ちに連る鍼灸運用の方法があつた。
 ところが「病的なるものから遠のいた処」に刺灸して治効を奏してゐるものもある。⑴偏正頭痛に列欠穴、⑵気上りふさぐに足の三里穴、⑶心下の寒するに少沢穴、⑷股関節の疼痛に丘墟穴、⑸神性痴呆に紳門穴、⑹牙歯痛に呂細穴(腎経の太谿穴)⑺肚腹の病に足の三里穴、⑻腰背の病に委中穴、⑼頭項の病に委中穴、⑽面ロの病に合谷穴、⑾子宮出血に孔最穴、⑿腰間の病に崑崙穴、⒀側頭、身体の外側の痛み、引きつり、異和感に丘墟穴、⒁上実下虚で、のぼせやすく、目熱ぼつたきものに立たせたまゝで、崑崙穴、京骨穴に刺鍼施灸する類はこれである。更に、脉を按じ、陰陽五行の理に基づき肋間神経痛の如きに対し、木の陽実症の場合、手の商陽穴を補して肋間紳経痛が鎮痛し、肺虚で咳嗽、喘嗽に際して大敦穴を瀉することによつて、軽快するのは所謂本治法なのである。
 このやうに、種々なる鍼灸治療法の相がある、いづれにしても、古典鍼灸の流れに掉さすものであることには相違ない。然も、標治法的直接的治療の方法は多分に刺戟療法的なものであり、刺戟のドーゼに重点を置き今の人のよく云ふ科学的なものである。が、本治法的なものは随証療法的なものであり、刺戟療法的理念を離れ、経絡に基づく治療法であると見ることが出来るのである。こゝに刺戟療法的な運用について蓮ぺたが、それでは、昔は刺戟療法的な考へを持つてゐなかつたかといふと、そうではない、次にその比較について述べやう。

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