第十節 鍼灸治療方法の種々相(5/7)

(四)刺戟療法

 大谷彬亮博士の「刺戟療法」に次のやうなことが記載されてゐる。刺戟の結果として現はるゝ身体的変化即ち生体反応は陽性相(Positive Phase)と陰性相(Negative Phase)であるとする。
(一)陽性相―疾病の軽快、神気爽快、食欲亢進、快眠、赤血球沈降速度増加、白血球増多を来し一般に治療成績良好なる感じを与へる。
(二)陰性相―全身倦怠、頭痛、筋肉痛、関節痛、食欲減退、不眠、嘔気、嘔吐を現はす現象で一般に症候の増悪を来すもので軽度、継続期間の短きを以つて可良とするものである。が、一、二時間より五、六時間に発し二十四時間に消退し、次に陽性転帰をとるのが普通であるのと、刺戟療法の教へるところであり、従つて
イ、適当刺戟は直ちに諸症の減退を見。
ロ、刺戟多きときは悪寒、戦慄をもつて高熱を発する。
ハ、最大刺戟は虚脱を起し、体温反つて下降することがある。
ニ、甚だしく過度ならざる刺戟であれば両日後に陽性相の現はるゝものである、従来存せし熱も下降するものである。
といふてゐるが、「続名家灸選」には「凡そ灸後寒熱、耳鳴、眩暈、頭疼、唇口乾燥し、痞満不食の証ありて、其の脉浮・滑・緩・洪ならば陽気通暢の象(即ち陽性相)であり、これは艾火活壮の効にして瞑眩であり、喜ぶべきものと為し、停止すること一、二日にして復多く灸す、若し其脉沈・緊・細・数・実・長・結・代ならば 火気炎逆の象(陰性相)で火邪に属するのだから施灸してはならぬ」旨を記してゐる。彼此参看すれば既に刺戟療法的理念のあつたことを知ることが出来るであらう。
最後に医師大久保適斎氏の長鍼運用の方法を述べてこの項を終わる。

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