第十節 鍼灸治療方法の種々相(7/7)

(六)九鍼

 以上の説論を眺めて、こゝに改めて霊枢、九鍼十二原篇の九鍼を想ひ出すのである。即ち
一、鑱鍼巾鍼に則る、末を去ること一寸半にして漸く鋭くし、長さ一寸六分、熱頭身にあるを主る、「古今医統」には箭頭鍼といふ。
二、圓鍼絮鍼に則る、其身を筩にして鋒を卵にして、長さ一寸六分肌肉を傷らず、分肉の間の気を治す。
三、鍉鍼黍粟の鋭なるに則る、長さ二寸半、脉を按じ、気を取り、補を用るに利あり、脉気虚少によろし。
四、鋒鍼絮鍼に則る、刃は三隅にして末を鋒にす、長さ一寸六分痼疾を発し、癰熱血を出すことを主る、所謂三稜鍼なり。
五、鈹鍼剱鋒に則る、広さ二分半長さ四寸、大癰より膿を出すことを主る、剱鍼ともいふ。
六、圓利鍼釐鍼に則る、毛の如く其末微大にして反つて其身を小にす、長さ一寸六分深く内れて癰痺を取ることを主る。「古今医統」に曰く陰陽を調へ、暴痺を去り飛経走気に用ふ、員利鍼とも書く。
七、毫鍼毫毛に則る、形蚊虻の喙の如く長さ一寸六分、寒熱痛痺絡に下るを主る。
八、長鍼綦鍼に則る、鋒利くして身薄すく、長さ七寸深部遠痺を主る。環跳鍼ともいふ。
九、大鍼鋒鍼に則る、其鋒小し、円く尖ること挺の如く長さ四寸大気関節より出でざるを主る。燔鍼ともいひ長さ四寸風虚・腫毒・解肌排毒に用ふ。
とある。これを見るに、多くは外科的に用ひたるものゝやうであるが、毫鍼、員利鍼について は「鍼道発微」にもある通り、毫鍼は柔和に刺して補をめあてとし、員利鍼はいなづまの如く、花火の如く響かせ、気をして炮むのはつするかのごとくひゞきを総身に通ずるに用ひてゐるが、即ち瀉に用ひてゐる。
 これ等は鍼の運用の進歩を物語るもので外科的物質的なるものより、生命生機の作用を目的とした微鍼に発展したことを示すものである。即ち、標治的なるものから、本治的なる「経絡治療」にと止揚されたのであつた。「証の科学」の素材として、現実に一つの体系を備へる約束が、とつくに、かくのごとく、つけられてゐたのである。
 鍼灸術の本領はこゝに至つて全機的となり、綜合全体的治療の面目を具備するに至つたと見られると思ふ。

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