鍼灸医術の門

鍼灸医術の門
昭和の名鍼灸師の一人に柳谷素霊先生という方がいました。鍼灸の復興・普及に尽力されたそうです。その先生が昭和23年に著した『鍼灸医術の門』という本があります。鍼灸の入門者を対象にかかれた書物です。全文を入手したので(H鍼灸院様ありがとうございます)掲載いたします。ちょっと難しいですが、鍼灸治療について興味のある方は是非読んでみてくださいね。

鍼灸医術の門
柳谷素霊著

水、米、酒と書いたからとて三題話を始める訳でもなければ、日蓮の君子の造り方をいわんとするのでもない、世に水はH2Oであり、米は含水炭素であり、酒はアルコールとのみ考へている人々に対していささか異論をさしはさもうとする下心からである。
 水に硬水もあれば軟水もある、泉水もあれば流水もある、米に上品もあれば、下等もあり、内地米もあれば南京米もある。酒に灘の生一本もあれば合成酒もある。老酒もあれば新酒もある。
 我々の実生活にはH2O含水炭素、アルコールよりも水、米、酒の方がぴったり来る。
 水、米、酒はそれ自体がある、どの水飯酒を飲んだり食ったりしても同じ事だなぞと語る手合いには話が通じない。
 鍼や灸もその通りだ、鍼の味、灸の味の分からぬものに話しても初まらぬ。況や鍼や灸が機械的刺戟、温熱的刺戟療法だと片付けている手合いにはH2Oや含水炭素や薬局方のアルコールでも飲ませたり食わして置けばよい。話したって分らぬ手合には話す張合がない、が、鍼や灸の味わいを知らんとする人は本書を見てもらいたい。そして、鍼を灸を施してもらいたい。
 鍼行灸施は芸術だ、道楽心がなければ出来ない業だ、面白いではないか一本の鍼、一撮の艾で万病を治し得たならば、愉快ではないか鍼灸をして万薬の作用をおこさせるとしたなら。
 相手は生きものだ、益々面白かろう、又やりがいのある男子の仕事ではないか。
 この門を通じて案内が分ったら、聖人のおわします、術の薀蓄の積まれている堂奥に参じ、耆婆扁鵲の如き神医となる夢を見るのも又愉快ではないか。
 この門が幸い前記の念願を満す道標となれば著者の望外の喜びである。敢えて草冠+舞言を連ね序と為す所以である。

 昭和廿三年戊子歳春分
於 湘南之地   
後学 柳谷素霊
目次
 第一節 緒言
 第二節 醫・手当
 第三節 穴
 第四節 経絡
 (一)経絡に沿ふて鍼灸の感覚が起る
 (二)動物実験例
 (三)X線による研究
 第五節 気血営衛
 (一)父母交媾成胎、先天之気
 (二)児成り、後天の気
 (三)営衛
 第六節 三焦緒論
 第七節 素質、外因、内因、不内外因
 (一)素質
 (二)外因
 (三)内因
 (四)不内外因
 第八節 四診
 (一)望診
  第一図表 五行色体表
 (二)聞診
 (三)問診
 (四)切診
  イ、脉診
  第二図表 六部定位、三部九候脉
  第三図表 祖脉虚実脉
  ロ、腹診
  ハ、切視、経背
 第九節 病証
 (一)五運主病、六気為病
 (二)正経自病
 (三)五邪所傷
  第四図表 五邪挙心為例
 (四)臓腑病(井滎兪経合主治穴)
 (五)十二経病(井滎兪経合補瀉穴)
 (六)是動病、所生病と井滎兪経合原穴解
  第五図表 井滎兪経合穴解
  第六図表 井滎兪経合主治証
 第十節 鍼灸治療方法の種々相
 (一)鍼刺法の種々相
 (二)施灸法の種々相
  イ、打膿灸
  ロ、焦灼灸
  ハ、生薑灸、蒜灸、韮灸、杏仁灸
  ニ、味噌灸
  ホ、塩灸
  ヘ、漆灸
  ト、墨灸
  チ、紅灸
  リ、油灸
 (三)病気に対する治療穴の種々相
 (四)刺戟療法
 (五)大久保適斎氏の鍼治論
 (六)九鍼
 第十一節 治穴配合の方則及臓腑取穴法
  第七図表 五行要穴図
  第八図表 十二原穴、要穴、郄穴、絡穴、兪穴表
  第九図表 治穴配合の方則
  第十図表 臓腑虚実補穴瀉穴表
 (一)要穴解
  イ、原穴
  ロ、郄穴
  ハ、絡穴
  ニ、兪穴
  ホ、募穴
  ヘ、八会穴
  ト、十五絡穴、交会穴、要穴
 第十二節 鍼灸技術の稽古
 (一)硬物通し
 (二)浮物通し
 (三)生物通し
 (四)生体に於ける硬物通し
 (五)生体に於ける浮物通し
 (六)気の往来
 (七)浮水六法
 (八)灸の稽古
 第十三節 補瀉の方法
 (一)補の意味
 (二)瀉の意味
  第十一図表 鍼灸補瀉之表
 第十四節 鍼灸科学の業蹟
 (一)穴に関するもの
 (二)鍼灸を刺戟とし、血液像に及ぼす作用に関するもの
 第十五節 鍼灸科学化の方途
 第十六節 結語
底本:『鍼灸醫術の門』医道の日本社 昭和23年4月25日発行
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